孤独な被告人 心開く

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親鸞会同窓会サークル
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親鸞学徒の弁護士たち

  1. 「親鸞学徒ならできる」被害者の心の救済

  2. 心にしみた「佐渡オケサ」 暴力団幹部の改心

  3. 「生きる価値があるんや」

  4. 敏腕女性弁護士の奮戦

  5. 「先生にだけ話します」孤独な被告人心開く

  6. 「ヤミ金地獄」から救出ITの推進に挑む

  7. 元暴力団員 塀の中から感謝の手紙

親鸞会ルボアールとは

Revoir(ルボアール)とは仏語で「再会」の意。ここは学生時代に、共に親鸞会で仏法を学び、卒業して社会人として活躍する親鸞会会員の、現場の声を集めたものです。

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孤独な被告人 心開く

第5回 「先生にだけ話します」 孤独な被告人 心開く

夜明けその女性被告が「殺害」を認めたのは、初公判から11年目の法廷だった。名古屋高裁金沢支部での控訴審。「自分で殺すしかないと思いました」という新たな証言に、裁判長は思わず身をのり出した。

富山と長野両県で若い女性2人が連続して殺された事件の裁判は、女性被告と、もう1人の男性被告のどちらが殺害の実行犯か、10年掛かりで争われていた。

なぜ女性が一転して、自らに不利な証言をしたのか、廷内に疑問が広がった。それに答えるかのように、続けてこう話した。「弁護士を信頼できると感じて真実を話しました」―――。

高橋晃弁護士(仮名)が、この女性の国選弁護人となったのは、その半年前である。それまでの私選弁護人が突然、解任されたためだ。

引き継いだ裁判記録は130冊。積み上げると10メートルを超える。途方に暮れたが、事件の全容を理解するため、1冊の内容を1枚の紙にまとめる作業に取りかかった。調書を読み、何度も心に浮かんだのは、「さるべき業縁の催せば、如何なる振舞もすべし」(歎異鈔)のお言葉だった。

「同じ状況に置かれたら、被告人のような選択肢しかなかっただろうと思いました」と言う高橋弁護士は、拘置所で面会する時、「自分だったら」と考えながら話をした。「あなたの気持ち、分かります」「私もそう感ずると思います」とうなずいて聞く弁護士に、被告人は次第に心を開いていった。

そんなある日、女性被告から、「先生にだけ話します。長野で殺害を実行したのは、実は私なのです」と打ち明けられる。冒頭の法廷での証言は、この1週間後だった。

「言いにくいことをよく言ってくれた」と驚くと同時に、それまでだれにも本心を伝えられなかった、被告人の「孤独」を思った。

「警察、検察という権力に対し、被告人はたった1人。何か調べたくても自由に動けませんから頼れるのは弁護士だけです。その弁護士が被告人の気持ちを理解しようとしなかったら、本当に独りぼっちです」と振り返る。

裁判では控訴棄却の判決が下されたが、その日、面会室で女性被告は、「隠していたことを洗いざらい言い、正直な気持ちで謝罪の手紙も書けました。一生懸命やっていただき、ありがとうございました」と頭を下げた。高橋弁護士は、被告人に誠意を尽くす大切さを実感したという。

  *    *

閉ざされた被告人の心を開かせ話題になったが、弁護士になって3年目のそのころ、忘れられない苦い思い出もある。

市街のビルの2階に法律事務所はあった。70代くらいの男性が杖を突いて相談に訪れた。話を聞くと、何10年も前に起きた問題で、法的解決は望めないものばかりだった。その都度、「無理です」「難しい」と告げると、男性はしばらく沈黙した後、

「もう結構です」と立ち上がり出て行った。「しまった」と思って跡を追うと、カランカランという大きな音がした。男性が、階段の下に向けて杖を投げつけた音だった。傾斜が急な階段で、杖を突いて下りられなかったらしい。その場に腰を下ろし、滑り台を滑るような格好で、懸命に一段ずつ下りていった。高橋弁護士は、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

「あの方も独りぼっちなのだ。頼る人がないから事務所に来られたのに」

こうした経験の中で、「利他に徹しなさい」という仏法の教えが改めて身にしみた。以来、法律相談の在り方を研究するようになる。その評判は口コミで広がり、平成4年から開設した事務所には、多くの依頼が入ってきた。

「個々の案件がおろそかになったら本末転倒だ。一人一人に満足していただかねば」。新たな悩みが浮上してきた。

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