生きる価値があるんや

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親鸞会同窓会サークル
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親鸞学徒の弁護士たち

  1. 「親鸞学徒ならできる」被害者の心の救済

  2. 心にしみた「佐渡オケサ」 暴力団幹部の改心

  3. 「生きる価値があるんや」

  4. 敏腕女性弁護士の奮戦

  5. 「先生にだけ話します」孤独な被告人心開く

  6. 「ヤミ金地獄」から救出ITの推進に挑む

  7. 元暴力団員 塀の中から感謝の手紙

親鸞会ルボアールとは

Revoir(ルボアール)とは仏語で「再会」の意。ここは学生時代に、共に親鸞会で仏法を学び、卒業して社会人として活躍する親鸞会会員の、現場の声を集めたものです。

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生きる価値があるんや

第3回 「生きる価値があるんや」

ビル群「生きる意味」を見失った人が、犯罪に走るケースは少なくない。朝比奈祐二弁護士(仮名)が担当した女性被告(38)もその一人だった。

「死にたい気持ちを忘れられるのは、覚醒剤をやっている時だけなんです」「このままなら、またやってしまう」

大阪地裁で、初公判前の打ち合わせを始めた時、女性は泣きながら、こう言った。一年ほど前のことだ。

覚醒剤使用の罪で、前年に続いて起訴されたこの女性には、厳しい判決が予想された。どう証言させたらよいか……。

「またやるかもしれない」と言えば極めて不利な証言だ。だが、「二度とやらない」と無理にウソを言わせることは仏法者としてできない。「法廷では正直に話してください」と伝えるしかなかった。

裁判で彼女は、「このままだとまたやってしまう」と、打ち合わせの時の発言を繰り返した。中学時代から暴力団の事務所にも出入りしていた女性は、少年院で過ごしたこともある。やがて親との連絡も途絶えた。 東京や大阪の歓楽街で働き、何度も男に裏切られ、覚醒剤におぼれていった。質問に答える女性は、うつむきがちの目に、終始涙をためていた。

だが1週間後の公判では、求刑よりも半年短い「懲役1年半」の温情判決が出た。

「正直に言わせてよいのか、迷いもありましたが、ウソをついて刑期を短くしても、死にたいという心が変わらねば、被告はやはり同じ罪を繰り返すでしょう。この女性に、生きる意味を伝えなければと思っています」

朝比奈弁護士は、裁判をこう振り返った。

   *   *

生きる意味を知ると、「ガラリと態度の変わる被告がいます」と話すのは、同じく大阪で活躍する山岡寛之弁護士だ。では、どう変わるのか。山岡弁護士は一人の青年(当時21歳)の例を語ってくれた。

「背中を丸めて小声で話す彼は最初、視線を合わせようとすらしませんでした」。一昨年の秋、留置場の面会室でのこと。やがて彼は、「どうせオレは人生の敗北者だから」とつぶやいたという。

話を聞くうちに分かったのは、彼がサッカーの花形選手だったことだ。高校では国体にも出場し、スポーツ紙の一面を飾ったりもしたが、練習中の大けがで選手生命を絶たれた。生きる意味を見失って大学は中退。遊び歩いていた時、昔の友人に誘われて、窃盗事件を起こした。その数は40件を超え、被害総額は数百万円に上った。

そんな青年に山岡弁護士は、「人間には生きる価値があるんや」と語りかけながら、1冊の本を手渡した。そこには、五輪平泳ぎの金メダリスト岩崎恭子が、その後のプレッシャーに、「金メダルなんていらない」とまで語った話もある。サッカーだけが人生と思っていた青年の心に、何か響くことを念じた。

その2週間後、面会に行くと青年は、山岡弁護士の目を見つめて語りかけてきた。「人生は、いいかげんにしてたらダメや、生きる意味があるんやと、この本から強く感銘を受けました」。本は3回以上読んだという。

法廷でも、現在の心境を尋ねられると次のように答えた。

「周りの人に大変な迷惑をかけてしまった。やけになってやってしまい、弁解の余地はありません。でも今は、生きる意味を感じています。今後、絶対にこんなことはしたくない。頑張って生きていきます」

スポーツマンらしく背筋を伸ばして答える姿から、暗い影は消えていた。

判決の日、「刑の執行を猶予する」という裁判長の言葉に、青年はゆっくりと肩の力を抜き、深く息をついて安堵の表情を見せたのを、山岡弁護士は今もはっきり覚えている。実刑判決は確実と思われていたが、「反省の色がよく見える」と、裁判長に評価されてのことだった。

しばらくして山岡弁護士のもとに、青年の両親から電話が入った。「大学をやめたころは、随分荒れていました。最近はよく、私たちに、『ありがとう』と言うようになったんですよ。今まで聞いたことがない。変わったなと思います」。今は働きながら専門学校に通い、資格を取るために勉強しているという。

「真の人生の目的を知ったとき、一切の悩みも苦しみも意味を持ち、それに向かって生きるとき、すべての努力は報われる」

あの青年の心にも、こんな言葉が刻まれているに違いない。変貌した姿に、山岡弁護士はそんな確信を抱いている。         (つづく)

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