ある暴力団幹部の改心

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親鸞会同窓会サークル
ルボアール

親鸞学徒の弁護士たち

  1. 「親鸞学徒ならできる」被害者の心の救済

  2. 心にしみた「佐渡オケサ」 暴力団幹部の改心

  3. 「生きる価値があるんや」

  4. 敏腕女性弁護士の奮戦

  5. 「先生にだけ話します」孤独な被告人心開く

  6. 「ヤミ金地獄」から救出ITの推進に挑む

  7. 元暴力団員 塀の中から感謝の手紙

親鸞会ルボアールとは

Revoir(ルボアール)とは仏語で「再会」の意。ここは学生時代に、共に親鸞会で仏法を学び、卒業して社会人として活躍する親鸞会会員の、現場の声を集めたものです。

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ある暴力団幹部の改心

第2回 心にしみた「佐渡オケサ」 ある暴力団幹部の改心

枯れ木宮中和典弁護士(仮名)の事務所に一通の手紙が届いた。差出人の住所は、北陸のある刑務所のものだった。便箋には、丁寧な文字が並んでいた。

「本、ありがとうございました。今、59ページまで読ませていただきました。この本のご縁を大切に、出所してからも、『ありがとうございます』と言えるように生きていきます。先生と出会えましたこと、感謝しています」

思いがけぬ手紙に、宮中弁護士は目頭が熱くなったのを覚えている。この男性と初めて会ったのは刑務所の面会室。半年前のことだった。

灰色の作業服姿で現れた男は、暴力団幹部の田宮政男被告(53)=仮名=。覚醒剤所持、傷害罪等で前科11犯だった。彼は刑務所内で、ある男に危害を加える傷害事件を起こしており、国選弁護人となった宮中弁護士が、事情を聞くために訪れていた。

「娑婆に出たら徹底的に仕返ししてやる!」。面会室の仕切り越しに聞く田宮被告の言葉はすさんでいた。

特に激高したのは、事件調書をもとに宮中弁護士が「被害者は、『正面から田宮を殴ったら、仕返しに、ハサミで顔を切りつけられた』と供述している」と伝えた時だ。

「違う!正面から殴られたんでない。そんな屈辱があるか」
「ハサミで切りつけたんでない。近づけただけだ」と反発した。

驚きながらも宮中弁護士は、とにかく言い分を聞こうとメモを取りつつ冷静に質問を続けた。だが詳細に聞くうちに突然、

「さっき、言っただろう!とどなりつけてきた。宮中弁護士は、「また来ます」と言って静かに部屋を出た。

田宮被告はその晩、腹立ちを抑え切れず、独房で机を窓に投げつけ、ガラスを割ったという。

ところが1ヵ月後、面会に行くと、田宮被告は意外な言葉を口にした。
ヤクザをやめる――。

「このままではプライドを傷つけられた時、相手を殺してしまうかもしれない。自分がダメになる」と淡々と語った。宮中弁護士が、はなむけに書籍を贈呈したいと伝えると、一瞬驚いた表情を見せたが、

「ありがたく読ませてもらいたい」と言った。すぐに仏教の書籍を贈った。しばらくして届いたのが冒頭の手紙であった。

なぜ田宮被告がガラリと変わったのか。宮中弁護士にもはっきりとは分からないという。ただ被告人と話す時、心がけていることがある。

「相手と同じ目線で接することです。話を聞く時は、途中で遮らないようにしています」と言う。

「人間は煩悩具足と教えていただいているので、自分自身も”さるべき業縁の催せば、如何なる振舞もすべし“だと思います。だから犯罪者でも、自分と別の人間とは思えないのです」
田宮被告の目に、そんな宮中弁護士の態度はどう映っていたのだろうか。

田宮被告から2通目の礼状が届いた。その後の判決の当日に書かれたものだった。
「お世話になりました。本日から社会復帰の第一歩だと思います。私は更生します。この道で、この立場から、世に生かさせて戴きたく思います」

宮中弁護士が刑務所へ足を運ぶと、彼は低く穏やかな声で語りかけてきた。

「読ませていただいた本、全編が心にしみました。『佐渡オケサ』の話がありましたね。母が新潟の出身で、私も聞いたことがあります。出所したら、姉に歌ってやりたいと思って、こないだ手紙に書いたんですよ」

面会を終えた宮中弁護士は、事務所へ向けて車を走らせながら、いつしか、そのお言葉を暗唱していた。

「……佐渡は四十九里波の上(浄土は苦しみの海の向こうにある)・佐渡と柏崎は棹さしゃ届くよ(浄土は近い、往き易いところ)・なぜに届かぬわが思い(浄土は近く往き易いのになぜ往く人がないのか。疑情一つが邪魔しているのだ)」(つづく)

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